第2回 データから読み解く、最新の食中毒発生状況
前回は食中毒の定義や分類についてお伝えしました。今回は、厚生労働省の最新統計(2025年・令和7年)を紐解き、「いつ、どこで、何が原因で」食中毒が起きているのか、その実態を解説します。
1. リスクを測る「3つの指標」
厚生労働省は、食中毒の発生に関する情報を収集し、「食中毒統計・調査結果」としてホームページ等で公表しています。この資料により、食中毒の事件数、患者数および死者数を都道府県別、月別、原因食品別、病因物質別、原因施設別に調べることができます。食中毒のリスクを正しく理解するために、次の3つの指標に注目することをお勧めします。
「事件数」は、食中毒が発生した「回数」を表しています。この数が多いほど、私たちの日常生活のすぐそばに危険が潜んでいる、すなわち「遭遇しやすさ」を示しています。
「患者数」は、その事件によって被害に遭った「人数」です。この数が多いほど、一度の発生が社会に与えるダメージ(被害規模)が大きいことを意味します。
「一事件あたりの患者数」は、一度の食中毒の発生でどれだけ影響が広がるかという「規模(スケール)」、すなわち「社会的影響の大きさ」を知るための強力な指標となります。
例えば、このシナリオAのように1事件あたり患者数1人の食中毒は、社会的な影響は小さいと考えられます。一方、シナリオBのように1事件あたり患者が100人の食中毒は、社会的な影響は非常に大きいと判断できます。

このように、「食中毒統計・調査結果」を「事件数」「患者数」そして「一事件あたりの患者数」の3つの指標で見ることで、食中毒発生のリスクを明確に知ることができます。
2. 年次別発生状況:2025年コロナ禍明けの急増と大規模化
2019年以降、コロナ禍の影響もあって、事件数は2021年に717件、患者数は2022年に6,856人まで減少しましたが、それ以降事件数、患者数ともに増加の一途をたどり、2025年には事件数が1,172件、患者数が24,727人と大幅に増加しました。昨年2024年と比較すると、事件数は1.1倍にとどまっていますが、患者数は1.8倍と大幅に増大しています。1事件あたりの平均患者数も2024年の13.7人から21.1人に増加していて、集団給食や大規模調理施設など「広域・多人数曝露」が常態化していることを示しています。特に大量調理を行う施設ではこれまで以上の警戒が必要です。


3. 月別発生状況:注意すべき「季節」と「病因物質」
2025年の月別発生状況の特徴は、2月の事件数184件、患者数8,054人、3月の事件数184件、患者数3,835人であり、この2ヶ月で年間事件数の31.4%、年間患者数の48.1%を占めています。
月別発生状況を細菌性食中毒とウイルス性食中毒に分けて集計すると、細菌性食中毒は6月〜8月の高温多湿の夏季に多く発生し、ウイルス性食中毒は2月〜3月の冬季にピークを迎えていることがわかります。


4. 都道府県別発生状況:事件数は都市部、患者数は事件の規模
2025年の都道府県別発生状況は、事件数では東京都、北海道、神奈川県、福岡県、大阪府など都市部や人口密集地域で多発しています。一方、患者数では兵庫県、愛知県、栃木県など地域的な特徴は認められませんが、1事件あたりの患者数で表すと、兵庫県では94.6人、栃木県では82.7人と群を抜いて多く、 兵庫県は2月8日に発生した仕出屋の弁当で2,307人の患者を出した事件、栃木県は4月10日に発生した仕出屋の弁当で407人の患者を出した事件や12月29日に発生した旅館の食事で277人の患者を出した事件など大規模食中毒の発生が反映されています。


5. 病因物質別発生状況:ノロウイルスをどう防ぐか
2025年の病因物質別発生状況は、事件数462件、患者数18,566人で、ともにノロウイルスが1位を占めています。年間の患者数は全食中毒患者数(24,727人)の約75%にあたる18,566人で、特に2月と3月にそのうちの約60%が集中しています。1事件あたりの患者数は40.2人であり、大規模食中毒事件に発展する危険性が最も高い病因物質です。
アニサキスは、事件数280件で病因物質別では最多クラスですが、毎月10〜30件程度で発生しており、季節的な変動はありません。1事件あたりの患者数は1.0人であり、集団食中毒に発展する危険性はありませんが、遭遇する頻度の高い病因物質です。
カンピロバクターは、事件数220件、患者数1,226人で、夏季に増加する細菌性食中毒に属するにもかかわらず年間通じて発生しています。生あるいは加熱不十分な鶏肉の提供など、鶏肉の取り扱いに関する認識不足が原因となっています。
ウエルシュ菌は、患者数1,260人と最多クラスで、事件数は33件と少ないですが、1事件あたりの患者数が示すように、仕出屋、製造所、学校や病院などの給食施設のように大量調理施設における集団食中毒のリスクが高い病因物質です。
1事件あたりの患者数が最も多かったのは腸炎ビブリオで、事件数こそ2件でしたが、そのうちの1件の仕出し弁当による患者数144人の事件が要因となっています。


6. 原因施設別発生状況
2025年の原因施設別発生状況では、飲食店が事件数658件、患者数11,724人で、それぞれ全食中毒事件数の56.1%、全食中毒患者数の47.4%を占めています。1事件あたりの患者数は17.8人と突出して規模が大きいわけではありませんが、発生頻度の高さ(事件数)を考慮すれば注意が必要な施設であると言えます。
1事件あたりの患者数で最も多いのが、仕出屋の139.7人であり、調理から喫食までのタイムラグが極めて長い業態の衛生管理のあり方が問われています。


7. 各病因物質の「プロファイル」まとめ
- ノロウイルス:事件数、患者数ともに1位。1事件あたり40.2人と、最も大規模化しやすい。
- アニサキス:事件数は多いが、1事件あたり1.0人と個別発生が中心。
- カンピロバクター:鶏肉の加熱不十分が主な原因。年間を通じて注意が必要。
- ウエルシュ菌:事件数は少ないが、カレーや煮物などの大量調理で集団発生しやすい。
- 腸炎ビブリオ:2025年は2件のみだが、うち1件で144人の被害を出し、規模は最大。
食中毒は、単なる「運」ではありません。統計が示す通り、原因物質ごとに「発生しやすい条件」や「広がりやすいパターン」があります。これらを正しく理解し、HACCPによる適切な工程管理を行うことが、皆様の事業とお客様を守る唯一の道です。
次回は、事件数、患者数ワースト1位の「ノロウイルス」について詳しく解説します。
執筆者プロフィール
薬学博士 松浦壽喜(まつうらとしき)氏







