第1回 知っておきたい、食中毒の基本

はじめまして。本連載を担当させていただきます、松浦壽喜です。私は39年間にわたり、製薬メーカーと大学の両輪で「食と健康」の安全性を追求してまいりました。近年、HACCPの義務化など食品衛生への意識は高まっていますが、食中毒事故は後を絶ちません。本連載では、現場で働く皆様に役立つ最新の知識を、分かりやすくお届けします。

執筆者プロフィール

執筆者プロフィール

松浦壽喜薬学博士

合同会社MOTTO!食品衛生 社長(代表社員)/武庫川女子大学 名誉教授

株式会社大塚製薬工場 輸液研究所にて研究開発・プロダクトマネージャー業務に従事。 その後、武庫川女子大学で31年間にわたり食品衛生学の研究・教育を行う。 食品衛生および健康食品分野における企業共同研究・講演実績多数。 現場視点と科学的根拠に基づいた衛生管理の普及に取り組んでいる。

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1. 食中毒の定義:なぜ「法律」が変わるのか?

食中毒とは、「食品、添加物、器具、容器包装に含まれた、または付着した微生物、化学物質、自然毒等を摂取することによって起きる衛生上の危害」を指します。

食中毒の定義は科学の進歩とともに進化しています。かつては、食品中で増殖した細菌や毒素を摂取して発症する健康被害を食中毒と定義していましたが、科学技術の進歩により食品中のウイルス検査が可能になり、1997年5月の食品衛生法施行規則の一部改正により新たに小型球形ウイルス(2003年8月にノロウイルスに名称変更)とその他ウイルスが食中毒の原因物質として追加されました。さらに、1999年12月には、旧伝染病予防法(明治30年4月1日法律第36号)で指定されていたコレラ菌、赤痢菌、チフス菌、パラチフスA菌も新たに食中毒として扱われるようになりました。

また、近年では原虫のクリプトスポリジウムやアニサキス、クドアなどの寄生虫による感染症も食中毒として扱われるようになりました。

このように、原因を特定できる技術が向上したことで、より正確な予防対策(HACCPなど)が可能になったことを意味しています。

2. 食中毒の分類

食中毒は、細菌性食中毒、ウイルス性食中毒、自然毒食中毒、化学性食中毒、原虫・寄生虫食中毒に分類されています。それぞれの特徴を掴むことが、対策の第一歩です。

食中毒の分類

細菌性食中毒は、さらに感染型と毒素型に分類されます。

感染型は、食品中で増殖した食中毒菌が飲食物とともに摂取され、腸管内でその菌がさらに増殖して健康障害を引き起こします。さらに、感染型は感染侵入型と生体内毒素型に分類され、感染侵入型は食中毒菌がヒトの消化管に直接作用して食中毒を起こします。サルモネラ属菌やカンピロバクターなどがこれに該当します。一方、生体内毒素型は、消化管内で菌が増殖する際に産生される毒素によって健康被害を引き起こします。腸管出血性大腸菌、ウエルシュ菌などがこれに該当します。なお、腸炎ビブリオはTDH(耐熱性溶血毒)などの外毒素によるものと考えられてきましたが、最近の研究でIII型分泌装置によるエフェクター注入機構が明らかになりつつあります。

毒素型は、菌が食品中で増殖する際に産生される毒素を飲食物と一緒に摂取することによって発症します。黄色ブドウ球菌やボツリヌス菌がこれに該当します。

現場での衛生管理を考える上で、細菌性食中毒の「型」を知ることは非常に重要です。なぜなら、「加熱すれば大丈夫」が通用しないケースがあるからです。

ウイルス性食中毒は、病原性をもつウイルスに汚染された食品等を摂取することによって急性胃腸炎を引き起こします。ノロウイルスやサポウイルスなどがこれに該当します。

自然毒食中毒は、もともと動植物がもっている有毒成分や食物連鎖によって動物の体内に取り込まれた有毒成分(自然毒)を摂取することによって引き起こされます。自然毒食中毒は、さらに動物性自然毒と植物性自然毒に分類されます。

動物性自然毒は、ふぐ、シガテラ、貝類などが該当します。植物性自然毒は、毒キノコ、じゃがいもの発芽部などが該当します。

化学性食中毒は、食品や原材料に本来含まれていない有害な化学物質が飲食物に混入し、それを摂取することで引き起こされます。ヒスタミンや有機水銀などがこれに該当します。ヒスタミンは、マグロ、ぶり、ハマチなど「ヒスチジン」というアミノ酸を多く含む赤身の魚とその加工品の保管状態が悪かったり、鮮度が落ちるとヒスチジンがヒスタミンに変化して、アレルギー様食中毒を引き起こします。

寄生虫食中毒は、ヒトの体内に寄生することで引き起こされます。食中毒の原因となる寄生虫には、アニサキス、クドア・セプテンプンクタータ、サルコシスティス・フェアリー、クリプトスポリジウムが該当します。

執筆者プロフィール

薬学博士 松浦壽喜(まつうらとしき)氏


合同会社MOTTO!食品衛生 代表社員

武庫川女子大学 名誉教授

株式会社大塚製薬工場 輸液研究所にて8年間、輸液製品などの研究開発・プロダクトマネージャーに従事した後、武庫川女子大学にて31年間にわたり食品衛生学の研究・教育に尽力。2020年には食物栄養科学部 食創造科学科の初代学科長に就任。独自に開発した「ラット門脈カテーテル留置法」を用いた企業との共同研究は60件を超え、講演実績は148件にのぼる。2025年6月、食品衛生および健康食品の研究・開発を支援する「合同会社MOTTO! 食品衛生」を設立。現場視点と科学的根拠に基づいた衛生管理の普及に努めている。

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