セミナーレポート

食中毒・食品事故の防ぎ方と食品現場のデジタル化

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本セミナーでは、元東洋大学教授・ハードルテクノ代表の佐藤順氏をお招きし、外食企業や食品工場で実際に使える食中毒・食品事故を未然に防ぐための基本的な考え方や、実例をもとに現場で押さえるべきポイントについて、解説いただきました。衛生事故の防止はもちろん、従業員教育・ブランド価値向上・業務効率化まで含めた“攻めの食の安全”を目指す企業の一助になる内容です。

開催要項

イベント名「食中毒・食品事故の防ぎ方と食品現場のデジタル化」
開催日時2026年3月12日(木)15:00~16:15
開催形式オンラインセミナー(Zoomウェビナー)
対象外食チェーン・飲食店・食品製造業における、品質管理・衛生管理・経営・HACCP運用に関わる方 など
プログラム 第一部(講演)
「食中毒・食品事故の防ぎ方~実例から学ぶ予防のポイント~」
講師:佐藤 順氏(元東洋大学教授/ハードルテクノ代表)
第二部(プロダクト紹介)
「食品現場のデジタル化 — ハレコードの紹介」
登壇:株式会社ウエノフードテクノ 十川 貴匡

はじめに

 2021年からHACCP制度化が本格施行されたが、22年以降、食中毒は減っていない状況にあります(図1)。一般的にHACCP定着には5年はかかるといわれるので、今年(2026年)は法改正の成果が問われる年ともいえるでしょう。

 ただし、日々の食中毒のニュースを見ていると、同じような事例が繰り返されているようにも感じます。

 食品現場の衛生管理の意識を大きく変えるには、従事者に対する「草の根」的な啓発活動や教育が重要です。本日は、衛生管理に臨む際の基本的な考え方などを解説します。

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図1 近年の食中毒発生状況(出典:厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/content/10906000/001679199.pdf

HACCPでは経営者のコミットが必須

 現場の衛生管理について話す前に、HACCPでは「経営者のコミットメント」が不可欠といわれています。「経営者のコミットメント」とは、経営者自身がHACCP導入に関する方針を声明することで、HACCPの7原則12手順に取り組む手前の「手順0」ともいわれることもあります。

 経営者はHACCP導入を全面的に支援し、必要な資源(人材、設備、教育)を提供する役割を担います。必要な教育・訓練を実施するとともに、HACCPに関する活動を全従業員に周知徹底し、日々の業務に反映させる必要があります。ISO22000の規格要求事項でも、「リーダーシップ及びコミットメント」の項で「必要な人員、設備、インフラなどの経営資源を確保し、目標達成を支援する」ことが求められています。

 2025年にある大手飲料メーカーが、果汁飲料の自主回収を発表しました。この事案に際して、フードジャーナリストの山路力也氏はYahoo!のニュースサイトで「コスト削減の圧力下でも、品質管理だけは妥協しない。安心・安全が求められている食品メーカーは、そのスタンスを守り続けていくことでしか、消費者からの信頼は得られない」と論じました(※)。私もこの意見には賛同します。

 必要な設備投資は、食品企業の経営者の重要な責務の一つです。「設備投資が必要」と聞くと「莫大な予算が必要」と思われるかもしれませんが、必ずしもそうとは限りません。例えばウエノフードテクノの「ハレコード」のように、クラウドを活用した現場の帳票管理をサポートする仕組みは、比較的低コストで導入することができます。最近は品質管理の取り組みをサポートする様々なシステムが開発されています。そうした技術を上手く取り入れることで、HACCP運用に係るコストを抑えることは十分に可能です。

https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/23f4b0b8a3b60c7035deffc5a073e9ca7186a548

「ハレコード」について見る

食中毒の原因物質

 一般的に、細菌性食中毒は、発症に至るまでの作用機序によって①感染型②毒素型③中間型の3つに大別されます。下記に簡単に概説します。

(1)作用機序による分類

【①感染型】
 食品中で増殖した菌を食品とともに食べ、小腸内でさらに菌が増殖し中毒を起こすタイプで、サルモネラ属菌や腸炎ビブリオ、カンピロバクター、病原大腸菌などが該当します。
 最近の「感染型」の食中毒菌の中には、腸管出血性大腸菌O157やサルモネラ・エンテリティディスのように、少量の菌で発症するものも多い(10個以下で発症に至る事例も散見される)ので、特段の注意が必要です。

【②毒素型】
 食品中に含まれる菌が増殖する際に毒素を産生し、その食品の喫食によって当該毒素による中毒を起こすタイプで、黄色ブドウ球菌やボツリヌス菌などが該当します。

【③中間型】
 ①と②の中間で、食品中で増殖した菌が腸管内に定着して毒素を産生し、その毒素が下痢などの症状を起こすタイプで、ウエルシュ菌やセレウス菌などが該当します。

(2)調理工程による分類

 こうした分類の考え方に加え、私は「食中毒を調理工程で分類する 」という考え方を提唱しています。例えば、従事者の体調管理や手洗いが特に重要となる食中毒の原因として、ノロウイルスと黄色ブドウ球菌が知られています。一方で、調理時の衛生管理(交差汚染の予防)が特に重要な食中毒の原因としては、黄色ブドウ球菌やカンピロバクターがあります。そして、調理時の温度・時間の管理(加熱や冷却など)が特に重要となる食中毒の原因として、ウエルシュ菌や腸炎ビブリオなどが挙げられます。

 こうした「発生要因」を基にした分類を理解しておくことで、現場での作業時に「どの工程では、どのような管理が大切か?」をイメージしやすくなるのではないでしょうか。

 また、最近は寄生虫による食中毒も増えています。アニサキス(魚の寄生虫)やクドア(ヒラメの寄生虫)では冷凍や加熱が確実な対策となりますが、鮮度の良い魚を仕入れ、すぐに適切に処理をする(薄切りにして確認するなど)ことも有効です。特にアニサキスは2013年~21年で2,185件発生しており、その内訳は飲食店647件に対し、ホテル・旅館はわずか4件にとどまっています。これは、ホテルや旅館の料理人の技術の高さを物語っているのではないでしょうか。こうした状況を見ていると、「HACCPの構築には調理技術も必要」ということがいえると思います。

近年の食中毒事例から学ぶ

 食中毒は「イレギュラーな状況が発生した時に起こりやすい」という点も心得ておくべきです。

 典型的なのは、季節行事や大規模イベントなどで、通常の製造量を超える場合です。こうしたケースでは「平常時とは異なる調理作業をする」「平常時は利用しない外部業者に発注する」「基本的な衛生管理がおろそかになる(手洗い、保管温度の管理不備、長時間にわたる保管など)」といったことが起こる可能性が高くなります。

 そうしたケースに備えて(イレギュラーの事態に柔軟かつ適切に対処できるように)、平常時から従業員教育で衛生意識を養っておくことが大切です。それは、必ずしも「製造や洗浄の手順などを教える」といったことだけではありません。最近は「食品安全文化」という概念が広まっていることは、皆さんご承知かと思います。状況に応じて適切な判断や行動をするためには、 一人ひとりが「食品安全を守る責任を担っている」という認識を持つことが求められます。そうした組織文化を根底から支えるための教育・訓練が大切です。

 では、最近の食中毒事例を紐解いてみましょう。

(1) 事例1:百貨店のうなぎ弁当の食中毒(2024年)

 百貨店で「土用の丑の日」に販売されたうなぎ弁当で、黄色ブドウ球菌による食中毒が発生しました。保健所の調査によると、従業員の手洗いが不十分で、手袋を着用していない人もいたようです(手洗い設備には物が置かれ、使える状態になかった)。体調や手指の傷に関する記録も十分ではなかったようです。

 そうした状況を踏まえて、保健所は健康状態の確認や記録の徹底、手袋の着用をはじめ衛生教育の受講などを指導しました。

(2) 事例2:老舗駅弁店の食中毒(2023年)

 全国の百貨店の催事に出店したり、さまざまな受賞歴を有する、全国的に知名度の高い弁当会社で、29都道府県で患者数516人という大規模食中毒が発生しました。調査によると、米飯の納入業者が(30℃以下で出荷すべきところを)温度管理を怠り50℃近くで出荷し、輸送の間に黄色ブドウ球菌とセレウス菌の増殖が起きたと公表されています(2種類の原因菌が報告された事例は珍しいと思います)。

 この事例では、温度管理や時間管理の不備、それらに対する知識不足、教育不足などが指摘されました。繁忙期で(平常時よりも)製造量が増え、普段とは異なる作業をしていた影響もあったと考えられています。

(3) 事例3:紅麹を含有する健康食品の事案(2024年)

 紅麹を含有する健康食品の事案では、原因調査の結果、工場内の青カビが培養段階で混入し、培養タンク内でプベルル酸などの化合物が作られたと推定されています(紅麹の培養室や試験室などからプベルル酸を生成する青カビが検出された)。

 紅麹は製造する過程で、蒸した米に紅麹菌を加え、培養タンクで培養します。その際、温度を一定の幅に保つために、タンクの外側の一部を温水につけて温めますが、機械の不具合で温水がタンク内に入った可能性も当初指摘されていました(この温水や、あるいは従業員の衣服などに青カビが存在していた可能性がある)。

 工場内で汚染源(青カビ)の根絶ができておらず、かつタンクへの汚染防止策ができていなかった点が主要な原因と考えられています。すなわち、この事案の発生要因は「一般衛生管理の不備」に集約されるといえるかもしれません。

(4) 加熱不十分のハンバーグによる食中毒

 最近の食中毒事例を見ていると、加熱不十分の食肉加工品(ハンバーグなど)による腸管出血性大腸菌の食中毒が毎年のように発生しています。生焼けの(表面を焼くだけで、内部まで熱が通っていない)ハンバーグを客自身が鉄板で焼くスタイルの飲食店では、以前から食中毒の発生が見られています。私は、こうした「客にCCP(重要管理点)の管理を委ねるような提供スタイル」は見直すべきと考えています。

衛生管理のキホン~「3大要素」を含む「5つのポイント」~

 食中毒予防の基本として、食中毒予防の3原則(①つけない②増やさない③やっつける)が知られている。なお、ノロウイルスの場合は、食品中で増えないので①持ち込まない②つけない③やっつける④拡げない、という4原則が知られています。

私は、この3原則をベースに「5つのポイント」という考え方、すなわち「衛生管理のキホン」を提唱しています。(図2 )。「食中毒予防の3原則」は、図2の汚染防止(→3原則の「つけない」)、温度管理(→3原則の「増やさない」)、殺菌(→3原則の「やっつける」)に該当します。過去に発生した食中毒事例の原因を紐解く中で、私は 「手洗い」「区別管理」「汚染防止」で防げた事例も多いと考え、これらを特に管理が重要な「3大要素」と名付けて強調しています。

 手洗いは「食品衛生は手洗いに始まり、手洗いに終わる 」という表現があるほど、きわめて重要です。区別管理は、キレイな物(食品や調理器具、製造装置、食器など)に汚染物質(微生物など)が移行しないように、「キレイなもの」と「キタナイもの」を区別管理し、交差汚染を予防することです( 図3 )。細菌検査で使用する器具類を置いたワゴンを例に、区別管理の「良い例」と「悪い例」を示します(図3)。左側の写真は「悪い例」です。使用済みの器具類(キタナイもの)の入ったバットと、消毒液(キレイなもの)が同一の平面に置いてあり、消毒薬が汚染されるリスクがあります。右側の写真は「良い例」です。ワゴンの上段に消毒液、下段に使用済み器具類を置いてあるので、器具類の汚れが(未使用の)消毒液に移る心配はなく、「区別管理」と「汚染防止」が適切に実施できている状態です。

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図2 5つのポイントで構成される「衛生管理のキホン」

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図3「3大要素」と区別管理の例

 温度管理は、食中毒予防に非常に有効で、かつ飲食店や小規模工場でも簡単に実行できる手法の一つです。さらに、日持向上剤の添加など、複数の対策を組み合わせる(「 ハードルテクノロジー」を考慮する)ことで、さらに静菌効果は高まります。図4 はカレーの一般生菌数および大腸菌群数の変化を調べた結果です。温度を下げるだけでも静菌効果は得られますが、日持向上剤を添加することで保存性はさらに高まることが明らかです。
同様の実験をハンバーグや肉じゃがでも行いました(
)。日持向上剤を添加しない試験区では、いずれの試料も冷蔵温度を2℃以上低下させることで、消費期限を2日以上延長できました。日持向上剤を添加することで、保存性のさらなる向上が認められました。

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図4 ハードルテクノロジーの有効性(温度管理、日持向上剤添加によるカレー(白飯を含まない)の静菌効果)

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表 生菌数が105個/gに到達する日数

【出典】佐藤順:衛生管理のキホン~食品事故の防ぎ方、月刊HACCP、30(10)、36-41(2024)

おわりに~記録の重要性~

 上記の「衛生管理のキホン」「5つのポイント」を念頭に、定期的に「自主点検」を実施し、必要な項目を帳票に記録してほしいと思います。その際、「ハレコード」のような記録のデジタル化ツールを利用することで、記録付け、記録の保管や見直しなどは、さらに容易になるでしょう。

 そして、定期的な現場点検とは別に、「日常的な現場チェック」を行うことをお勧めします。日々のチェックは、(定期点検ではないので)わざわざチェックリストを作らなくても大丈夫です。「日々のちょっとした心がけ」が食品安全のさらなる向上につながります。まずは「自分の担当エリアだけ」でも構わないので、現場を客観的・俯瞰的に確認することを習慣にしてほしいと思います。

 その際、ぜひ「5つのポイント」に注意してみてください。多くの現場では「手洗いはしっかり」という意識は浸透していると思うので、特に「区別管理」「汚染防止」「温度管理」「殺菌」の視点で、現場に問題がないかチェックするとよいでしょう。

 そして、何か問題が見つかった際には、衛生管理計画(あるいは手順書)を見直すようにしてください。HACCPや衛生管理で重要なのは、常に「改善」に取り組むことです。定期的に見直す、あるいは工程に変更が生じた際には必ず検証を行う、といったことを徹底してほしいと思います。そして、見直す、検証する、といった作業をする際には、「記録」が非常に重要な役割を担います。そうした視点で「必要な記録は何か?」と考えると、どの記録をデジタル化するとより効果的かも見えてくるのではないでしょうか。

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講師紹介

佐藤 順(さとう じゅん)/博士(農学)
食品微生物・食品衛生を専門に、企業と大学の双方で食品安全に携わる。明治乳業、日本コカ・コーラ、日本マクドナルド、すかいらーく、キッコーマン等で品質保証・HACCP導入支援・工場監査・クレーム対応などサプライチェーン全体を見据えた食品衛生実務を経験。
2011年より東洋大学(食環境科学部食環境科学科)にて食品衛生学・食品安全学などを担当し、微生物制御の考え方を食品ごとに「ハードルテクノロジー」の観点から整理・再構成。日本缶詰協会技術賞、阪崎利一賞など受賞。現在はハードルテクノ代表として、食中毒・食品事故の未然防止と再発防止のための教育・点検・記録整備・仕組み化支援を行う。

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アーカイブでご視聴いただけます。URLをお送りしますので、ぜひお問合せください。

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左:株式会社ウエノフードテクノ 林 晋也

中央:ハードルテクノ代表 佐藤 順氏

右:株式会社ウエノフードテクノ 十川 貴匡

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